ロンディさんの後を付いて行くと、案内された先は応接室と思われる部屋だった。
席に座ると店員さんらしき人がお茶と茶菓子を用意してくれた。「急にお呼び立てして申し訳ございません。改めましてロンディと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「アキツグです。よろしくお願いいたします」 「それでは早速本題なのですが・・・失礼を承知でお聞きしたいのですが、アキツグさん、うちで支払いの際にスキルを使用されましたか?」その一言に心臓が跳ね上がる。
当たり前になって意識から抜けていたが、物々交換での支払いなんて特異なものの筆頭じゃないか。今まで誰にも違和感すら持たれなかったので、気づかれることはないと思い込んでしまっていた。「えっと、支払いは問題なく処理されたと思っているのですが、何故スキルを使用したと?」
「ふむ。誤解して欲しくはないのですが、私は支払いについてあなたを責めるつもりはありません。スキルを使用した根拠としては支払いが金銭ではなく物品で行われていたからです。うちでは通常物品での支払いは受け付けておりませんので」バレてる。やはり物々交換で取引したことがバレている。
これは言い訳は苦しいか。。「ご推察の通りです。ただ、使用したというか常時発動している効果であり、悪意があって物品で支払ったわけではないのです」
「なるほど、そうでしたか。実は店内監視の魔道具にほんの少しですがノイズの様な反応がありましてな。何事かと確認したのですが、まさか取引に干渉するようなスキルが存在するとは」 「こちらとしては仕方なかったのですが、申し訳ありません」 「いえ、それはお気になさらず。それよりもお願いしたいことがあるのです」 「お願い・・・ですか?いったい何でしょう?」 「ご存じかもしれませんが、魔道具の多くは魔法やスキルを解析してその仕組みを道具として使えるようにしたものになります。そしてあなたのようなスキルを私は見たことがありません。魔道具の発展のために是非そのスキルについて調べさせていただけないでしょうか?!」ロンディさんは話すうちに興奮してきたのか最後の方はこちらへ乗り出すよ
その後、食事を終えた俺達はメイル大森林へやってきた。 聞いていた通り森の獣達の中にはそれなりに危険なものも居たが、装備を更新したこともあり苦戦するほどのものではなかった。 そうして深い森を進んでいくと、そのうち辺りの木々が子供に見えるほどの大樹がその姿を現した。 それは思わず圧倒されるような佇まいだった。幹の太さは優に人の十倍以上もあり、樹の天辺は枝葉に隠れて見えない。いったいどのように育てばこのような大樹になるのだろうか? 俺が樹の天辺を見つめてそんなことを考えていると、足元から聞き覚えの無い声が聞こえてきた。「あんた、良ければ買っていかんかね?」驚いて声のした方を見ると、そこにはローブを身に纏った小柄な老婆が木製と思われる首飾りをこちらに向けて差し出していた。 驚いたのは突然声を掛けられたから、ではない。声を掛けられる直前まで索敵スキルに反応がなかったのである。他の皆も同様らしく、驚きながらも警戒した様子でその老婆を見ていた。「あんたいったい何者だ?」 「そんなに警戒せんでもよかろうに、私はただの物売りじゃよ。それよりどうするね?」答える気はないらしい。とはいえ敵対する様子でもない相手にいつまでも気を張っていても仕方ないだろう。それよりは気になっていることを聞くことにした。「何で俺なんだ?それに物売りという割に商品はそれしかないみたいだけど」 「アンタらにはこれが必要となる気がしたから。それだけじゃよ。アンタに声を掛けたのは・・・まぁ、偶々じゃ」返ってきた答えもよく分からないものだった。というか半分は答えになっていない。とはいえ、ここまで言われると気にはなってしまう。その首飾りの中央には緑色の宝石の様なものが嵌められていた。 この老婆から悪意を感じなかった俺は、交換して貰うために手持ちのものからいくつかの商品を取り出した。「この商品のいずれかと物々交換でも構わないか?」 「ふむ。・・・ほぉ、この木彫り細工はこの辺では見ないものじゃ。これを貰おうかの」彼女が選んだのはリブネントで仕入れた木彫り細工の一つだった。
翌朝から再びフォレストサイドへ旅を続け、三日程度で到着した。 道中魔物や獣との戦闘が幾度かあったが、カランダルさんもやはり強かった。 Aランク冒険者は伊達ではないということだ。 ちなみに、俺もこちらの大陸で戦っている間に能力のレベルがいくつか上がっていた。少し前まで交換で他人から貰ったスキルは成長しないのか?と考えて不安になっていた時期もあったので一安心だ。 今の能力はこのようになっている。-------------------------------- 魔法:ライトニングLv4、ディグLv2、ライトLv4スキル:斬撃耐性Lv2、罠察知Lv5、罠外しLv4、索敵Lv2、スラッシュLv2 --------------------------------スラッシュは試してみたことはあるのだが、流石に魔銃で発動させることはできなかった。魔銃がメインの現状だと上げるのは難しいと思っている。 罠察知、罠外しは元々のレベルが高かった上にダンジョンでないと使用する機会がほとんどないため、これもしばらくはそのままだろう。街に入り、ヤミネラさんの鍛冶屋の前までやってくるとカランダルさんが鍵を開けて扉を開けてくれた。「あ~やっぱりですか。これじゃお客さんが来てもろくに商品を見ることもできないじゃないですか・・・」店の中は以前見た時とほとんど変わりなかった。 カランダルさんは身近なところから整理し始めていた。「あ、店内を好きに見て貰って気に入ったものがあれば教えて下さい。よほどのものでなければ黒真鉄の代金内に収まると思いますから」そう言いながら整理の作業に戻っていった。勝手にあんなに動かしたら怒られそうな気がしたのだが、止めても無駄だろうなと思い口にするのは止めておいた。 その後店内を二人で見て回り、カサネさんは小型のクロスボウと矢を、俺はいくつかの属性ナイフを選んだ。 カサネさんは元々複数属性を扱えるため遠距離物理攻撃手段の確保、俺は近距離で相性の良い攻撃手段の確保という訳だ。 カランダルさんに見て貰い問題ないということで、
日も暮れて野営の準備を始めた頃、ようやくカランダルさんが目を覚まして起きてきた。「ふわぁ・・・もう夜なんですね。だいぶ眠ってしまいましたか」 「おはようございます。って言って良いのか時間的には困りますけど、ゆっくり休めましたか?」 「えぇ。お蔭さまでだいぶすっきりしました。あ、野営の準備手伝います」 「いえ、起きたばかりですしもう少しゆっくりしていて下さい。準備ももうすぐ終わりますから」 「そうですか?では、お言葉に甘えさせて頂きますか」そういうとカランダルさんは近くに腰かけてのんびりと空を見上げた。 今日は満月だ。柔らかな明かりで照らされ周囲も比較的明るい。「あ、起きられたんですね。おはようございます」そこに薪拾いに行っていたカサネさんが戻ってきた。「えぇ、ゆっくり休ませて頂きました。そういえば装備の方は試されましたか? できれば感触など聞いておきたいのですが」職人としては自分の仕事の成果は気になるものなのだろう。 俺達は昼間の戦闘で感じたことをカランダルさんに伝えた。「そうですか。ちゃんとお役に立てたようで何よりです。明日からは私も勘を取り戻すためにも戦闘に参加しますね。まぁ向こうに着くころにはコクテンシンの件は終わっていそうですけれど」 「そういえばカランダルさん達はAランクパーティなんですよね?ハクシンさんは戦っているところを見せて貰ったことがあるんですけど、ヤミネラさんとカランダルさんはどんな戦闘スタイルなんですか?」 「ヤミネラはクロスボウを使ったサポートタイプだね。流石にスキルまで勝手には話せないけど、それも含めてと考えて貰えばいいよ。私はカサネさんと同じ魔導士だよ。主に火属性と闇属性を得意としてる」前衛一人、中衛一人、後衛一人って感じか。三人パーティとしてはバランスがよさそうだ。「以前にコクテンシンと戦った時にはもう一人、回復や補助を得意とするメンバーが居たんだけどね・・・その時の怪我がもとで引退してしまったんだ。 時々手紙でやり取りする限りでは、今は地元で元気にしているみたいだけどね」カ
カランダルさんの作業完了までの数日間は冒険者ギルドで簡単なクエストを受けたり、例の広場でフリーマーケットに参加したりして過ごした。 そして、四日後にカランダルさんから特性付与が終わったと連絡が来たので、俺達は早速カランダルさんの鍛冶屋にやってきた。「いらっしゃい。早速来てくれたんだね。楽しみにしてくれていたようでこっちも嬉しいよ」 「もちろんです。出来上がるのを心待ちにしていましたから」 「防具までお願いしてしまったのにかなり早かったですね」 「あぁ、黒切を仕上げたことで何か閃きを得たような感じでね。自分でも驚くくらいスムーズに特性付与が進められたんだ。調子に乗ってしまったおかげで少し寝不足だけど」そういうカランダルさんはよく見ると目の下にうっすらと隈ができていた。 しかし、その表情は満足げだ。「俺達の為に、そこまでして頂いてすみません」 「いやいや、こっちも楽しくなってしまって勝手にやったようなものだか気にしないで下さい。さて、お待ちかねの品はこちらになります。どうぞ」そうして後ろの棚から俺達の武器、防具をカウンターに並べた。 俺は早速久しぶりの魔銃を手に取ってみる。「・・・ん~?持っただけだとあんまり違いは分からないですね」 「前にも言ったけれど能力向上は補助程度だからね。流石に持っただけで実感するほどの効果を得るのは難しいよ。走ったり、敵と戦ってみれば感覚の違いが分かるんじゃないかな」なるほど。言われてみればその通りだ。 隣を見るとカサネさんは水の玉をいくつか浮かべて効果を確認していた。 俺も試してみたいところだけど、ライトは迷惑になりそうだしな。あとの楽しみにとっておこう。「カランダルさん、本当にありがとうございました」 「ありがとうございました」 「お役に立てて何よりだよ。それでだけど、一つ、いや二つお願いがあるんだけど良ければ聞いてくれるかな?」 「なんでしょうか?」 「とりあえずはこの後ヤミネラの店まで行くことになると思うんだけど、その後できれば君達にもサムール村まで来て欲しい、というより馬車に僕も
「さて、特性付与について君達からご希望はあるかな?」 「いえその、まず特性付与でどんなことができるかも分かってなくて」 「なるほど。そういえばそうか。では、まずはそこから話そうか」 「すみませんがお願いします」 「といっても、難しい話はしないから気楽に聞いてくれれば良いよ。 特性付与っていうのは名前の通り武器に特有の性質を持たせることだ。 武器種によって相性や無意味になるものもあるけど、それは気になるものがあれば個々に説明しよう。今、私ができるのはこのくらいだね」そう言うとカランダルさんはカウンターの下から数枚の紙束を取り出して、 それを俺達の前に広げた。-------------------- 特性付与一覧表 ・威力強化(小、中、大) ・種族特攻(獣、鬼、竜、・・・) ※特化特性 ・武器破壊 ※特化特性 ・弾速強化 ・射程強化 ・魔力消費軽減(小、中、大) ・重量変化(軽、重) ・耐久性強化 ・耐性強化(斬撃、刺突、投射、・・・) ※特化特性 ・特殊耐性(毒、麻痺、火傷、・・・) ※特化特性 ・能力向上(力、魔、速、・・・) --------------------なるほど。この弾速強化や射程強化っていうのは、遠距離武器用なんだろうな ・・・いや、ゴブリンロードの剣のように衝撃波を放つことができるものの場合、それも対象になるんだろうか?・・・今持っているわけじゃないし、そこは気にしなくてもいいか。 他に気になるのは・・・「この特化特性っていうのは?」 「属性付与と似たようなものだよ。例えば獣特攻を付与した場合、それ以外の種族には威力が下がってしまう。武器の性質をその種族に対して相性が良いものに変化させてしまうからね。耐性系も同じように考えて貰えばいい」そういうことか。であれば候補からは外していいかな。俺達は特定の相手と戦うわけじゃないし、汎用性の方が重要だろう。 そうなると分かり易いのは威力強化だろうか?
街まで戻ってきて衛兵にコゲンジを引き渡して事の次第を説明すると、衛兵達は急いで山中に向かっていった。あとで聞いたところによると、街への観光客が時々行方不明になる事件が起きていたらしい。しかし、いつ居なくなったかは分からず、バーセルドから帰る途中で魔物に襲われたのかもしれないということで調査は難航していたらしい。 ここは観光地で人の往来はかなり多い。そんな中で誰かが居なくなったとしてもどこで居なくなったのかを特定するのは難しいのだろう。「私がもっと早く気づいていれば・・・」 「あいつが本性を隠すのが上手かったってことだろう。少なくともカサネさんが責任を感じることじゃない」 「そう・・・ですね。アキツグさんありがとうございます」 「礼を言われるようなことじゃないけど、どういたしまして」 「いえ、今の話もですけど助けて頂きましたから」そう言ってカサネさんは丁寧に頭を下げた。 小屋でのことを言っているのはすぐに分かった。「それこそ仲間を助けるのなんて当たり前のことじゃないか」 『そうね。それにカサネの拘束を解いたのは私なんだけど?』 「も、もちろんロシェさんもです。ありがとうございます」 『冗談よ。それに私は一回失敗しているしね。あの時はごめんなさい』 「それはお互い様ですよ。まさか街中にあんな仕掛けがされてるなんて、私も思っても見ませんでした」確かに。人通りが少ないとはいえ街中で催眠ガスのトラップを仕掛けるなんて 大胆すぎる。地の利が向こうにあったからこそ先回りできたのだろう。 これは後日コゲンジ達を尋問して分かったことだが、やつらは眠らせたカサネさんを布袋に入れて擬装用の荷物と一緒に荷車であの小屋まで運んだらしい。 眠らせた後のことまでしっかり手はずを整えていた訳だ。 会ったのはその日の午前中だったというのに手際が良すぎる。恐らくは以前から同じような方法を使っていたのだろう。「骨休めするつもりがまたトラブルに巻き込まれてしまったな。でも、コゲンジも捕まって不安の種も解消されたし、今日は温泉に入ってゆっくり休もうか」 「そう